CHRIS FLORENによる技術論文
ターボの水冷化
ターボに水は本当に必要? なぜ気にしなければならないの?
Garrettのエンジニアは、水冷ターボチャージャーについて多くの質問を受けます。ターボのセンターハウジングの側面に余分な水配管の必要性やメリットについて、多くのお客様が疑問を持たれています。なぜそれらを必要としているのでしょうか?という疑問がありますが、実は水冷ターボは水配管を適切にしないと、取り返しのつかないことになります。このGarretホワイトペーパーは、水冷ターボにどんな効果があるのかを説明し、水冷ターボに懐疑的な方にも、水冷ターボの効果やセッティングに必要で、小さな努力の価値があることを納得して頂けるような内容になっています
水冷の実際の効果は?
水冷化により機械の耐久性が向上し、ターボチャージャーの寿命が延びます。多くのターボチャージャーは、水冷ポートがなく、空気とそこを流れる潤滑油で十分に冷却されるように設計されています。また、Garrett GT、GTXのボールベアリング式ターボのように、初めから油と水で冷却するように設計されています。空冷式ターボと油冷式ターボはどのように見分けるのでしょうか?ターボチャージャーのセンターハウジングに、オイルの出入口フランジから90°の位置にネジポートがあれば、水冷式となります。Garrettのエンジニアが開発時に定めた耐久性目標を達成する為に、水を流す必要があります
水冷のメリットは、実際にはエンジン停止後に発生します。タービンハウジングやエキゾーストマニホールドに蓄積された熱は、エンジン停止後にターボチャージャーの中央部に “ソークバック”を起こします。水冷の配管が適切でない場合、この高熱がタービンホイールの後ろにあるベアリングシステムとオイルシールのピストンリングを破壊する可能性があります
水冷の仕組みは?
ターボチャージャーの水冷の物理的プロセスは興味深いものであり、明白に見えるものとは異なる方法で機能します。通常のエンジン運転では、エンジンのウォーターポンプによる圧力でターボチャージャーに水が流れます。しかし、エンジンが停止し、ウォーターポンプが停止した後でも、ウォーターラインが適切に接続されていれば、「熱サイフォン」と呼ばれる現象により、ターボのセンターハウジングに水が引き込まれます
センターハウジング内の熱は、一般的な水冷エンジン(各シリンダーを囲み、シリンダーヘッドを流れるウォータージャケットです)の冷却効果のように、伝導によって水に伝わります。ターボチャージャー内を流れる水が熱を吸収して自由に出ると、冷却システム内を通って上昇し、より冷たい水をターボチャージャー内に引き込みます。こうして、エンジン停止後にターボチャージャーに再びソークバックした高熱は、ベアリングやシールから離れ、エンジンのウォーターポンプ作動を借りずに深刻なダメージを引き起こすことを防ぐことが出来ます
水冷化でターボの寿命が延びるのはなぜ?
“ヒートソークバック”は、ターボチャージャーのエンジニアとターボユーザーが真剣に考えなければなりません。この有害な熱の発生源は排気系にあります。排気温度が高くなると、エキゾーストマニホールド、タービンハウジング、タービンホイールに大量の熱を放出します。これらの部品は、慎重に設計し、素材を選択することによって、非常に高温に対応出来るように設計されています。しかし、これらの部品はすべて互いに接触しているため、蓄えられた熱の一部は、耐熱性の低いセンターハウジング、ベアリングシステム、ターボチャージャーのシャフトに自然に伝導していくことになります。エンジンが作動し、ターボのベアリングシステムにオイルが流れている間、伝わった熱のほとんどはオイルに吸収され、ベアリングやオイルシールの損傷を防ぐことが出来ます
エンジンが停止すると、オイルの流れは止まり、タービンを通過する排気ガスの流れも止まりますが、排気マニホールドやタービンハウジングに蓄えられた熱はまだ残っています。この熱をどこかに逃がさなければなりません。その逃げ道は、ターボの中央部や排気ダウンパイプに伝導するか、ボンネットの中の周囲の空気に輻射されるかのどちらかしかありません。少量の熱は輻射と対流で空気に伝導しますが、センターハウジングの方が温度が低い為、大部分はタービンハウジングからセンターハウジングに伝わります。さらに、熱の一部はタービンホイールからシャフトに伝わり、ベアリングシステムに向かって放出されます
このタービン&排気冷却の段階では、ターボの中央部に “ソークバック”を起こす為、センターハウジング、オイルシール、ベアリング、ターボ内に残っているオイルの温度が、エンジン稼働時の温度より高くなり、オイルの流れが熱を奪うことが出来なくなる為、ターボが正常に作動しなくなります。この現象は、タービンハウジングが大きいとより顕著になります。タービンA/Rが大きいほど(タービンハウジングが大きいほど)、運転中にハウジングに熱がこもりやすくなります。そのため、運転停止後のヒートソークバック時にターボが損傷する危険性が高くなります
冷却不足でターボが破損するのはなぜ?
ターボ水冷がどのように機能し、どのような状況にあるかが分かったところで、冷却が不十分な場合の結果について理解し始めることが出来ます。ベアリングシステムとオイルシールシステムの両方が、過熱されることによって損傷する可能性があります。ボールベアリングカートリッジは非常に頑丈で、繰り返しの酷使にも耐えることが出来ますが、極限状態での使用には限界があります。ボールベアリングカートリッジは、インナーレース、2組のボールとリテーナー、アウターレースのセットで構成されています。インナーレースとアウターレースは、通常の使用条件下では非常に強く硬いさまざまなグレードの鋼鉄で出来てますが、温度が高くなりすぎると強度が低下します。一般的なボールベアリングのレースは、150℃を超えると強度と硬度が急速に低下し始めます
典型的な高出力ターボチャージャー付きガソリン エンジンで排気ガス温度が 1800°F (980°C) まで上昇する可能性があることを考えると、低いように思えるかもしれませんが、ベアリングはいくつかの防御線によって厳重に保護されています。
タービンホイール裏のヒートシュラウド、センターハウジングとタービンハウジングの接触面積の低減(熱伝達率の低減)、運転中の油冷、水冷、そして高温停止後の水冷など、複数の防御策によってベアリングは手厚く保護されています。水冷については、ターボチャージャーのセンターハウジング内のウォータージャケットがボールベアリングカートリッジを包み込み、ボールベアリングの温度を限界値以下に保ってベアリングの故障を防止するように設計されています。しかし、水を使用しない場合や正しく配管しない場合、ベアリングの温度は容易に制限値を超え、ベアリングの遊びが大きくなり、タービンとコンプレッサーのホイールがそれぞれのハウジングで擦れて、最終的にはターボの故障を引き起こす結果となります
この材料劣化に加え、ベアリングの温度が高くなると、スチールボールベアリングカートリッジの内部クリアランスが減少します。この為、ターボチャージャーを定格回転数以上で使用した場合、スチール製ボールベアリングが物理的にロックしたり、焼き付きや、ターボチャージャーが壊れる可能性があります。高回転は高過給圧であるため、ターボユーザーはターボの水冷ラインの設定や状態に十分な注意を払う必要があります。”ハイブースト”とは、ターボによって異なりますが、一般的に25psig(1.7bar)以上のブーストを言います
不十分な冷却と非常に高い温度は、ベアリングシステムの健康を損なうだけでなく、オイルシールを破壊する可能性もあります。オイルが過熱されると、酸化して「コークス」と呼ばれる炭素系の固形物が生成され、黒くこびりついた煤のような物質が現れます。ターボチャージャーのオイルシールは、エンジンのクランクシャフトのようなゴム製のシャフトシールではなく、鋼鉄製のピストンシールであり、高温のターボチャージャー内ではゴムシールやOリングはシール性を維持出来ません。そこで、ターボチャージャー内の高温環境下では、ゴム製のシールやOリングではシール性を維持出来ない為、スチール製の”ピストンリング”をターボシャフトの溝内に装着しています。エンジンのシリンダー内にあるピストンリングのように、センターハウジングのボアに押し付けるようにバネ性を持たせています
また、正しく動作させる為には、ある程度の自由度が必要で、軸方向の動きも少量必要です(軸方向への出し入れ)。過熱したオイルがシール部分でコークス化すると、ピストンリングのシール溝がコークスで満たされ、リングを過剰に拘束することになります。その結果、リングが軸に擦れるという、本来あってはならない現象が発生することがあります。このような自由な動きの制約と過熱が相まって、リングはセンターハウジングのシールボアの外側に膨張して塑性変形を起こします。この塑性変形(元に戻らない変形)はリングコラージュと呼ばれ、ターボチャージャーが冷えるとピストンリングシールはバネ性を失い、もはやオイルシールとして機能しなくなる。このように、水冷が機能しないことで、センターハウジングからタービンハウジングへのオイル漏れが激しくなり、高温の排気ガスでオイルが燃焼して煙を発生させることになります
水冷式ターボチャージャーの正しいセッティング方法は?
ターボチャージャーは、冷却システムのウォーターラインを適切に設置することで、ヒートソークバックによる破壊を防ぐことが出来ます。ターボチャージャーの水冷化は、複雑なプロジェクトである必要はありません。ターボのウォーターラインは、エンジンの既存の冷却システムに配管する必要があり、車両にヒーターラインが残っていて便利な場合は、ヒーターラインから分岐して使用することが出来ます。水冷式Garrettターボチャージャーは、水と不凍液の50/50混合液を使用したヒートソークバックテストにおいて、91℃の温度で使用出来ることが確認されています。水冷の効果を最大限に引き出すためには、ターボチャージャーのセンターハウジングを中心軸(シャフト)周りに回転させ、ウォーターポートが水平から約20°の角度を持つようにします。これは、先に述べた熱サイフォン効果を促進するために必要なことです
入力水(エンジンの冷却システムからの冷たい側)は、ハウジングを回転させた後、2つのポートのうち低い方に配管する必要があります。エンジンの冷却システムに戻る高温の出力水は、高い方のポートに配管され、冷却システムと会うところまでずっと「上り坂」を移動するようにする必要があります。このリターンラインには、上下方向のねじれやトラップがあってはなりません。ターボチャージャーのどちら側でも出口として使用できます。ウォーターコアはどちらの方向にも流れるように設計されています。このように、冷たい水が低い側から入り、回転したセンターハウジングに導かれ、高い側から出るように適切に配管することで、エアポケットの形成を減らし、エンジン停止後の熱サイフォンの期間に無制限の流れを可能にします。これにより、熱サイフォン効果を最大限に発揮し、ターボ内部の温度上昇を抑制することが出来ます。Garrettの実験によると、センターハウジングを回転させ、より高温の水をより高いポートから排出させると、センターハウジングのピーク温度は50℃も低下することが分かっています。ハウジングを水平から20°以上回転させると、さらに温度が若干下がりますが、オイルの排出を妨げる可能性がある為、最大でも20°に留めて下さい
さまざまな種類のウォーター ラインをうまく使用出来ますが、ウォーター ラインを選択する際に従うべきガイドラインがいくつかあります。 エンジンクーラントの温度がこれまでにないほど高く、場合によっては 250°F (121℃) 以上になる定格のホースまたはウォーター ラインを必ず使用して下さい。ウォーターラインまたはホースは、水および不凍液と互換性があるように設計する必要があり、ほとんどは互換性があります。簡単な取り付けと漏れないシステムの為に、AN スタイル (37° fl are) フィッティングが推奨されます。Garrett ウォーター ポートへのさまざまなアダプターが、多くの販売店から入手出来ます。 ハード スチール ラインまたはフレキシブル ラインのいずれかを使用出来ますが、ハード ラインが損傷を与える振動を受けないように注意する必要があります。 エンジンが作動していると、通常のエンジン振動がありますが、高トルク出力時にエンジンがマウント上で回転する為、ウォーターラインも動きます
両端に何らかのフレキシブルな部分を持たないハードラインは、その取り回しによっては、エンジン回転による亀裂や曲がり、通常のエンジン振動による疲労が発生することがあります。亀裂が入るとクーラント漏れにつながるので、ハードラインの使用にあたっては、回転や振動に十分な配慮が必要です。自動車エンジンの多くは水冷式であり、水冷式ターボチャージャーの配管は非常に簡単です。しかし、高性能車には空冷式エンジンがあり、水冷式ターボチャージャーと併用する場合は、空冷式エンジンの配管に若干の手間がかかる場合があります。理想的には、リザーバータンク、小型ラジエーター、場合によっては電動ウォーターポンプを備えた、独立した水冷システムを構築する必要があります。熱サイフォン効果を優先して配管やリザーバー配置を工夫すれば、ターボチャージャー内の熱で自然に冷却水が循環するので、ウォーターポンプは不要かもしれません。疑問がある場合は、ゲージやデータロガーで冷却水温度を細かく監視し、システムが適切であること、ターボチャージャーに入力側で約121℃以下の温度の水または冷却水が供給されていることを確認することを強くお勧めします
排気ガス温度が極端に低く、水冷システムを持たない車両(低出力ディーゼル車やメタノール/アルコール燃料のドラッグスターなど)は、ターボチャージャーに水冷システムを必要としない場合があります。この場合、すべてのターボコンポーネントの状態を注意深く観察し、ベアリングが良好な状態を保ち、オイルコークが形成されていないことを確認する必要があります。疑わしい場合は、簡単な水冷システムをセットアップして下さい。要約すると、水冷はウォーターポートが装備されているターボチャージャーにとって重要かつかなり単純な要件です。水冷式ターボチャージャーのオーバーヒートは、非常に強い破壊力を持っており、考え抜かれた水冷システムによって、ターボチャージャーは過酷な条件下でも長寿命でいられます。ターボチャージャーに水冷システムを導入することは、ターボチャージャーの寿命を延ばすことにつながります
水冷設置チェックリスト
- 1. ターボを取り付けたら、センターハウジングを水平から20°、どちらかの方向に回転(クロック)させて下さい
2. 車両の冷却系統に接続する為の適切な場所を選びますターボは、ヒーターラインやヒーターホースとインラインで接続することも可能です
3. ヒーターバルブの開閉に関係なく、常にターボに水が流れることを確認します
4. www.garrettmotion.com またはGarrettカタログにて、ウォーターポートのネジ規格をご確認下さい
5. 配管、アダプターはポートネジと車内レイアウトを考慮して選択して下さい
6. 冷えた水(入力)をセンターハウジングの下側ポートに配管します
7. 高温の水(出力)は、センターハウジングの高い方のポートから供給します
8. 冷却システムに戻る出力ラインに上下方向の起伏がないことを確認します
9. システムのどこかでハードラインを使用する場合、振動やエンジントルクによるクラックを防ぐ為、柔軟なセクションを使用します
10. センターハウジングのウォーターポートへの接続部 は、クラッシュワッシャーでシールします
11. ターボ装着後に冷却系統に補充する際は、クーラントレベルを頻繁に確認し、必要に応じて補充して下さい
12. 冷却システムにエアポケットがないことを確認し、完全にエア抜きを行って下さい
13. エンジンが空冷式の場合、水冷式ターボチャージャーを使用する際は、別途水冷システムを検討することをお勧めします